名古屋地方裁判所 昭和50年(ワ)1594号 判決 1981年1月30日
原告
杉田正雄
被告
三笠運輸株式会社
ほか一名
主文
一 被告らは原告に対し、各自金九六四万七九四四円及びこれに対する昭和四八年八月二三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 本判決は原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは原告に対し、各自金一一〇七万九四五四円及びこれに対する昭和四八年八月二三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和四八年八月二三日午後一時一八分頃
(二) 場所 愛知県宝飯郡音羽町大字赤坂字御園三五番の二
(三) 加害車 被告紅林運転の貨物自動車(浜松一一か一〇七)
(四) 被害車 原告運転の普通貨物自動車(名古屋一一さ九五五五)
(五) 事故の態様 信号待ちしていた被害車に加害車が追突したもの。
(六) 傷害の程度 左第二楔状骨皹裂骨折、腹部・胸部挫傷、頭骨骨折、両膝部・口腔内・顔面・右大腿部・右前腕・両下腿・睾丸挫創、肝臓破裂、右第一一肋骨・右第七、八肋骨・第六頸推骨折
2 責任原因
被告紅林は加害車の運転者として前方注視義務があるのにこれを怠り、本件事故を発生せしめたものであり、被告会社は加害車の保有者として自己のためにこれを運行の用に供しており、また被告紅林の使用者であり、しかも本件事故は業務執行中の事故である。
3 損害
(一) 治療費 金三〇万六八四四円
(二) 入院雑費 金七万四一〇〇円
昭和四八年八月二三日から昭和四九年四月二六日まで可知外科に入院したが、その間一日金三〇〇円の割合による二四七日分
(三) 付添費 金二四万七〇〇〇円
右入院中の一日金一〇〇〇円の割合によるもの
(四) 交通費 金五万三〇〇〇円
(五) 休業損害 金二九〇万一三二八円
原告は本件事故当時合資会社蔦源産商の傭車をしており、一か月金一八万一三三三円の収入を得ていたが、本件事故により少なくとも一六か月間就労ができず、金二九〇万一三二八円の損害を被つた。
(六) 将来の逸失利益 金八四一万一四一〇円
原告は本件事故のため頸部痛、頭重感、右顔面神経麻痺、鼻閉症、運動障害、性機能障害などの自賠法施行令所定の八級相当の後遺障害を残し、症状固定日(昭和四九年一二月六日)より少なくとも一一年間は四五パーセントの労働能力を喪失したので、その間の逸失利益は金八四一万一四一〇円となる。
181,333×12×0.45×8.5901(ホフマン係数)=8,411,410円
(七) 慰藉料 金二六八万円
原告は前記のとおり二四七日間入院し、退院後も昭和四九年一二月六日まで可知外科に通院(実治療日数六二日間)、あわせて同年五月一〇日から同年七月三一日まで名古屋掖済会病院に通院(実治療日数一〇日)したほか、前記後遺障害を残すに至つたことを考えると、その間の慰藉料としては金二六八万円が相当である。
(八) 車両損害 金三〇万円
原告は本件被害車は昭和四七年五月金五〇万円にて購入し、本件事故のため廃車したが、本件事故時の価格は金三〇万円が相当である。
(九) 弁護士費用 金六〇万円
4 よつて、原告は本件事故によつて合計金一五五七万三六八二円の損害を被つたが、被告会社から人損分てして金二八一万四二二八円の弁済を受け、また自賠責保険から金一〇一万円の支払を受けたので、これを差引くとその残額は金一一七四万九四五四円となるので、原告は被告らに対し、その内金として各自金一一〇七万九四五四円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和四八年八月二三日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実中、原告主張の日時、場所において、被告紅林運転の加害車と原告運転の被害者との間に交通事故が発生したことは認めるが、(五)の事故の態様は争い、(六)の点は知らない。
2 同2の事実中、被告会社が加害車の保有者であることは認めるが、その余は争う。
3 同3の事実は争う。
三 抗弁
被告会社が本件事故による損害賠償金として原告に支払つたものは、人損分として金三一一万八九三七円である。
四 抗弁に対する認否
被告会社の抗弁中金二八一万二二八円の支払を受けたことは認めるが、その余は否認する。
第三証拠〔略〕
理由
一 原告主張の日時、場所において、被告紅林運転の加害車と原告運転の被害車との間に交通事故が発生したことについては当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証及び原告本人尋問の結果によると、右被害車が本件事故現場の交差点手前で、停止中のトラツクの後部に信号待ちのため停止していたところ、その背後から来た加害者に追突されたこと、これがため原告は請求原因1の(六)の傷害を負つたことが認められ、右事実によれば、被告紅林には加害車を運転するにつき前方不注視の過失があつたことは明らかであり、しかして、本件加害者が被告会社の保有に属するものであり、かつ、被告会社において原告の被つた損害につきその賠償をしてきたことは被告会社の自認するところであり、右事実に弁論の全趣旨を総合すると、本件事故は被告会社の業務中の事故であるものと認むべきであり、以上の事実によれば、被告らは原告の被つた人損及び物損を賠償すべき義務があるものといわなければならない。
二 そこで、原告の被つた損害について検討する。
1 治療費について
成立に争いのない甲第二号証、第三号証の一ないし一〇、第四号証、原告本人尋問の結果によると、原告は前記傷害のため、昭和四八年八月二三日から昭和四九年四月二六日までの間、愛知県豊川市国府町所在の可知外科に入院し(入院日数二四七日)、同月二七日から同年一二月六日まで同外科に通院して治療を受け(治療実日数は六八日)、そのほか、鼻骨骨折治療のため同年五月から同年七月までの間、名古屋掖済会病院に通院して治病を受け(治療実日数一〇日)、その間の治療費として金三〇万六八四四円を要したことが認められる。
2 入院雑費について
原告が二四七日入院したことは前記のとおりであり、右人院期間中一日金三〇〇円の割合による合計金七万四一〇〇円の入院雑費を要したことは経験則上これを認めることができる。
3 付添費について
前顕甲第一号証によると、原告の入院中付添看護を要したのは三九日間であつたことが認められ、右付添費として一日金一二〇〇円の割合による合計金四万六八〇〇円の付添費を要したことは経験則上これを認めることができ、右金額を超える分については本件事故と相当因果関係がないものと認める。
4 交通費について
前記事実によると、原告は治療のために少なくとも七八回通院したことが認められ、原告本人尋問の結果によると、可知外科における通院は違距離であつて高速道路の料金その他ガソリン代等少なくとも合計一日一二〇〇円の費用を要したことが認められ、右事実によれば、本件通院費としては、原告主張の金五万三〇〇〇円を下るものではないものと認める。
5 休業損害について
原告本人尋問の結果真正に成立したものと認める甲第六、第七号証及び右尋問の結果によると、原告は本件事故当時名古屋市南区所在の合資会社蔦源産商に傭車の形で雇われ、本件被害車をもつて家具類の運送の業務に従事し、一か月平均金一八万一三三三円の収入を得ていたこと、そしてその内一六パーセントを経費として要したこと、ところで原告は本件事故発生後昭和四九年四月二六日まで入院し、昭和五〇年二月頃からようやく名古屋市西区にある玩具店の倉庫係として勤め始め、一か月約一〇万円程度の収入しかあげることができなかつたことが認められ、右事実のほか前記認定の傷害の程度、症状が固定したと認められる同年一二月六日までの治療日数、その受けた後遺症の程度、本件事故当時従事していた職務内容等を考え合わせると、原告は本件事故当時から昭和四九年一二月六日までの一五か月と一四日は全く稼働して収入をあげることができなかつたものと認めるのが相当であり、そうだとすると、その間の休業損害は金二三五万五八七七円となる。
181,333×0.84×15=2,284,795円
181,333×0.84×14÷30=71,082円
6 将来の逸失利益について
前記甲第一、第二号証、原告本人尋問の結果及び鑑定人楫野學而の鑑定及び中部労災病院に対する鑑定嘱託の結果によると、原告は大正九年八月一日生れの本件事故当時五三歳の健康な男子であつたこと、本件事故によつて受けた原告の症状は昭和四九年一二月六日固定し、原告は脊柱に運動障害を残すものとして自賠法施行令所定の後遺障害等級八級二号の、生殖器に著しい障害を残すものとして同じく九級一六号の、助骨に著しい奇形を残すものとして同じく一二級五号の後遺症を残すに至つたことが認められ、右後遺障害のうち、労働能力の喪失に影響を与えるものは、主として脊柱の運動障害であつて、右労働能力喪失率は四五パーセントと認めるのが相当であり、原告の就労可能年数は少なくとも一一年は続くものと考えられるから、前記原告の年収をもとに原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の算式どおり金七〇六万五五一円となる。
152,319×12×45%×8.5901=7,065,551円
7 慰藉料について
本件事故の態様、原告の受けた傷害の部位程度、治療の経過、後遺障害の内容程度、原告の年齢その他諸般の事情を考え合わせると、原告の受けた精神的苦痛に対する慰藉料としては原告主張の金二六八万円を下るものではない。
8 車両損害について
成立に争いのない甲第五号証の二、原告本人尋問の結果真正に成立したものと認める甲第五号証の一、右尋問の結果によると、原告は本件被害車を昭和四七年四月四六万円で購入し、本件事故によつて廃車せざるを得なくなつたが、その当時の価格は金三〇万円であり、その後スクラツプとして金一万円で売却したことが認められ、右事実に徴し、車両損害としては金二九万円と認める。
三 以上の事実によれば、原告は合計金一二八七万二一七二円の損害を被つたものというべきところ、原告において右損害の填補として人損につき合計金三八二万四二二八円(内金二八一万四二二八円については当事者間に争いがない)を受領したことは原告の自認するところであるのでこれを差引くと、その残額は金九〇四万七九四四円となる。
被告会社は、被告会社において原告に支払つたものは右金二八一万四二二八円のほか金三〇万四七〇九円がある旨主張するが、これを確認するに足る証拠はないので、右主張は採用することができない。
四 弁護士費用について
本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告らに対し本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金六〇万円(内訳人損分五七万円、物損分三万円)と認めるのが相当である。
五 よつて、原告の本訴請求は被告らに対し各金九六四万七九四四円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和四八年八月二三日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判法する。
(裁判官 白川芳澄)